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玄関を開けると、麻衣が出迎えてくれた。
麻衣は夜勤明けで、今日と明日は休みらしい。
まだ夕ご飯を食べていないことを伝えると、麻衣がご飯を温めにキッチンへ向かった。
僕はリュックを椅子にかけ、食卓に着く。
いつもなら、結が出迎えてくれるのに今日はどうしたのだろう。
お風呂にでも入ってるのだろうか。
キッチンから麻衣の声がする。
「来週からテストだっけ?大丈夫?」
「何とかなると思う」
「悟くんは頭が良いから、きっと大丈夫だよ」
「麻衣に一度もテストで勝ったことないけど」
「それは、私が天才だからだよ」
キッチンから顔を出し、えへんとおどけて胸を張る麻衣に本当にその通りだから何も言い返せなくなる。
そこで、ちょうど会話が途切れたので、ふと尋ねる。
「結はどこ?」
その問いかけに麻衣はすぐに答えなかった。
少しの沈黙が流れ、それを遮るように電子レンジの音が鳴った。
何もなかったかのように麻衣が温めた夕食を運んでくる。
「結ちゃんはお母さんに話があるって。さっき、隣の家に戻ったよ」
「なんで、止めなかったの?」
「まだお父さんが帰ってくるには早いから、大丈夫って言ってたし......結ちゃんがすごく真剣な顔をしてたから」
僕は思わず隣の家に面している部屋の壁を見つめる。
何も音は聞こえてこない。
本当に大丈夫だろうか。
「これからのことを話し合うんじゃないかな?
なかなか決心できなかったけど、覚悟を決めたって言ってた」
「結は決めたんだね」
麻衣が頷く。
麻衣がせっかく温めてくれた料理に僕は手がつけられなかった。
恐らく今日も結がご飯を作ってくれたのだろう。
それなのに、僕は箸を持つことさえ、できなかった。
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