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麻衣もそれ以上は何も言わなかった。 麻衣と僕の間に微妙な空気が流れた、その時だった。 男性の怒鳴り声と大きな物音がした。 その後に女性の悲鳴があがった。 僕は一瞬、動けなかった。 結に何かあったのだとすぐに事態を察した。 結の父親が帰ってきたのだ。 すかさず、僕が立ち上がろうとすると、麻衣が僕の手を掴んだ。 「警察呼ぶね。あと救急車も」 「それよりも今は結を助けにいかないと」 麻衣は僕の手を離さなかった。 「私たちが行ったら、結ちゃんのお父さんが逆上するかもしれない。結ちゃんがもっと酷いことをされるかも」 「だからって、ここで黙ってじっとしてろって? そんなのできない」 麻衣の手を振り払い、僕は隣の家に向かった。 麻衣は着いて来なかった。 恐らく警察と救急車を呼んでいるのだろう。 隣の家の呼び鈴を鳴らす。 すぐに玄関のドアが開き、先程見た結の母親が顔を出した。 「助けて。お願い」 その様子はとても切羽詰まっていた。 足早に結の母親に着いていくと、リビングに結はいた。 結は頭から血を流して、倒れていた。 彼女の頭上にあったテーブルの角に血がついていた。 恐らく、父親に殴られた弾みでテーブルの角に頭をぶつけたのだろう。 すぐそばに結の父親が呆然として、突っ立っていた。 少し酒臭かったが、もう酔いは覚めたようだった。 赤かったであろう顔は今は青ざめていた。 彼は焦点の合わない虚ろな目でただじっと結を見据えていた。 「結が、どうして、こんなことに。どうしよう。どうしたら......」 結の母親は混乱しているようだった。
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