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「お兄ちゃん、私のスマホ知らない?」 「テーブルの上で見たよ」 「本当だ。ありがとう。私もう行かなきゃ。 行ってきます」 「行ってらっしゃい」 それから、10年が経った。 僕は大学を卒業し、無事就職をして、今は妹の紗友里と一緒に暮らしている。 麻衣も看護師を続けており、休みが合えば、時々三人で会っている。 紗友里は高校卒業認定を受け、見事合格した。 今はアルバイトをしながら、就職活動の真っ最中だ。 今日も面接があるらしく、着なれないスーツに身を包み、出掛けていった。 あれから、結とは一度も会えていない。 連絡も取っていない。 今頃、結は何をしているだろうか。 きっと結のことだから、一生懸命勉強して、大学生になっていることだろう。 いや、もう就職しているかもしれない。 最後に見た結の笑顔を思い出す。 あの日、結の言う通りに帰ってしまって、本当に良かったのだろうか。 警察に洗いざらい、本当のことを話した方が良かったのではないか。 何度もそう思ったが、今更どうしようもできなかった。 ふと時計を見ると、既にいつも家を出る時間になっていた。 まずい。今日は新入社員が来る日だから、いつもより、早めに出ようと思っていたのに、普段と変わらない時間になってしまった。 僕は急いで家を出た。
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