あの日捨てたもの

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 あの日、       僕は、           妻との美しき平穏な日々を、        ー   捨てた   ー      僕は彼女に……、              心を奪われた……    妻は、僕にはもったいない、出来すぎた素敵な女性だった。    愛と気品に満ち溢れ、才色兼備の良妻賢母。    いくらでも、イケてる男を選べたはずが、なぜだか、僕を選んでくれた。 「不釣り合いだ!」と言われても、「ダサ()だよ!」って言われても、「彼といるのが落ち着くの」って、周りの声を黙らせた。    なのに、僕は、そんな妻を裏切った。  妻と結婚するとき、僕は固く誓った。「こんなイケてない僕を選んでくれたんだ。せめて、恥ずかしい思いだけはさせまい」と。    常に、身なりを整え、丁寧な言葉を遣い、清潔感を保ち続け、妻にとって相応しい男になろうと努力し、背伸びもした。  ……僕は疲れた。  あの日、酒に酔っていたせいもあっただろう、僕は目の前に現れた、若い娘に……、心を奪われた。  そして、  ー 魔が差した。ー  妻と観ていたバラエティ番組。若い女性芸人さんがおもしろ過ぎた。僕は気がゆるみ、思わず  ー プッ! ー  と、屁をこいた!   妻のご両親にも申し訳が立たない。夫として、許されるはずもない、あるまじき行為だ!  こんな素敵な妻に、恥ずかしい思いをさせてはいけない。スタイリッシュで上品な夫でいよう。あれだけ固く誓っていたのに。  僕は、やはり、妻には相応しくない男だったんだ!  僕は覚悟した。  妻から発せられるであろう別れの言葉を。  そして、うつむきかげんだった妻が口を開いた。 「あなた、今、おならした?」 「ごめん! 覚悟はできてる、言ってくれ」 「やっと、夫婦になれたわね!」 「えっ?」 「あなたが私を大切に思ってくれているのは分かってるの」 「あ、あぁ」 「でもね、それって~、よそ行きの服を、家の中でも着てるみたいだったじゃない」 「うん、まぁ」 「よそ行きの服は脱いで、心温まる、おなら温まる日々を過ごしましょうよ、夫婦なんだもん」 「あ、ありがとう……」  僕は涙がちょちょ切れた。  妻のためにと追い求めた、トレンディドラマのような、美しき平穏な日々を、僕は捨てた。  そして、僕は、庶民的で無理のない、『屁ぇ~温な日々』、を手に入れた。
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