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心音
目覚めた時の、背中越しの空白が嫌だ。何もないので はなく、気配に勝る空白があることが。
だから眠らないし起きもしない。ただじっと横になり、自分の心臓の音に耳を澄ませている。かといって、生きているという感じがするわけではない。硬い音を聞いていると、彼の声を聞き、彼を見て、肌に触れたりしている時には生きていたものが、死んでしまったのだと感じる。それは彼がいた時には意識すらしなかった音なのだ。どうして自分の心臓が、こうまで硬い音を立てるのだろう、と思う。暴力的なまでに硬い。彼の声が聞きたいと思う。低く柔らかなあの声を呼び戻そうとして、はっきりと憶いだすことができない事実を、また確かめる。くっきりと響かせることができないのだ。当たり前のように、私は彼自身でもなければ、超高性能型のロボットでもないのだから。
今の私にあるのは、この心臓だけだった。
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