散らかった部屋

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「硝子戸の中、夏目漱石か…」  すっかり散らかってしまった部屋の中で、転がっている文庫本のタイトルを一瞥した僕は、ただうずくまっている。 「まったく嫌になるなあ」  嘆息した僕は、部屋のあちこちにある紙やら服やら積載したカタマリの一つから、ひときわ大きい本を引っ張り出した。雪を冠する北アルプスの山小屋の特集本だ。 「どうしてそんなものがあるかって?決まってるじゃないか。ここに山がないから…か」  自問自答しながら、ふうっとため息をついた。  ただただ月日が過ぎて、あっという間に僕は年を取っていく。早く部屋の整理をしたい、モノを捨てていかなければ…と思うのだが、思い入れはあるし、情報のキー&ストックとしてもこれは手放せない。そんな風にして何やらよく分からぬカタマリが、六畳の部屋の中にいくつもできあがってしまっている。でもその中から時にふいに出てくる思い出の品に、心を慰められたりすることがあるのもまた確かなことだった。  大体物事というものは均衡するのが良いもので、片付ける度合と散らかる度合のバランスが崩れるとなかなか事態がよろしくないと聞いたことがある。ある程度の範囲でこれは真理だと思う。部屋を見渡すと全くその通りだった。  しかし、ホコリは積もりすぎると呼吸器に悪さをする。アレルギー持ちの僕は、なんとか元気なときに掃除を少しでもしておかないと、その後がまずい。新型の掃除機を購入してある程度対処できるようになったのは、つい最近のことだった。
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