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記憶
実は今でもパソコンのフォルダの中には何千枚ものスキーの写真が埋まっている。コストパフォーマンスは一枚数円の換算になるので、まあよく頑張ってくれたと思う。写真を指紋が付かないように指で挟んで持ちあげる。…僕はうっすらと転勤中のできごとを思い出していた。
小さなころからいじめられることの多かった僕は、勤め始めてから数年のころの転勤先で壮絶ないじめにあっていた。今思い出してみても青空の記憶が少なくて、おそらくは下ばかり向いていたのではないかなあ…と思う。
いじめとは例えばこんな具合だ。
一つ目。職場にものとりじいさんがいた。この人は毎日、ネットで不審者情報のチェックと、タバコ、あと女性職員に話しかけることしかしない。普通なら窓際には少なくとも追いやられるのだが、このじいさんは困ったことに、物を盗ってしまうのだ。狙われた人は当然抗議の声を上げるが、これまた盗られるのが怖い上司は証拠が出てきても被害者と加害者を五分五分にしてしまう。評価を下げようにも、上司もまた彼が怖いから下げられない。働かない高給取りが誕生し、同僚も付和雷同するばかり。そしてついに僕は物盗り爺さんに狙われてしまった。ある日、僕の担当の取引先に返す物品を持って帰ると叫んでいた。当然それを阻止したのだが、彼に逆恨みされ大事な書類を棚から盗られてしまった。上司には「お前がシュレッダーにかけた」ということにされ、出世の道を僕は絶たれてしまった。棚の鍵は、事件直後に職場の各々に配布された。実は過去にも何人か同様の状況で辞めており、なんでも一人は飛び降りしてしまったということだった。年を取った人間は年齢と共により悪くなることもある、話せば分かるというわけでもない…と痛感した出来事だった。
二つ目。そうなるともう、カースト最下位となり、同僚からは袋叩き。居場所がないのでトイレでため息をつくと、ノックをしに来る同僚がいた。あとをつけられていたのだろう。仕事もやったふりが横行していた職場だが、やったふりをできない僕は、実際にある程度やろうとしていた。そうするとスピードは遅くなり、ボロが出る。見事なまでの袋叩きで、叩くことで自身のチェック能力をアピールする機会を狙う同僚たちの、格好の餌食になっていた。ひたすら監視され、ただただ疲れていく一方だった。
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