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小学生低学年の頃、私の家は山の中腹にあり、山全体が遊び場でした。
「ショウ君、ついにゲットした!」
ある日、ご近所で1番の仲良しだったアキラ君がBBガンを持って家にやってきました。BBガンとは、プラスチックの弾丸が打てる当時大流行していたオモチャの拳銃です。
「やった!今から打ちに行こうよ!」
アキラ君より少し前にBBガンを買ってもらっていた私はアキラ君と一緒にBBガンで遊べるのを心待ちにしていました。
なにせ周りは山です、民家以外だったらどこでも打てると言っても言い過ぎではありません。
家の近くの適当な場所から山道に入って、駆け登りながら「あの木を狙えー!」とか「後ろも油断するなー!」とか叫び声を上げて好き放題BBガンを打ちまくっていました。
「あれはなんだー!やっつけろー!」
「任せろー!」
前方、アキラ君が指さした木に大きな何かがぶら下がっていて、絶好のターゲットを見つけた私達は足を止めずBBガンを打ちながらどんどん“ソレ”に近づいていきました。
「ショウ君、やばいよ……。」
「…アキラ君これ、人だよね。」
“ソレ”の3メートル程手前で自然と2人とも足を止め、BBガンを打つのをやめました。
木にぶら下がっていた大きな何かの正体は、私達に背を向けた状態で首を吊っている女性の死体でした。レインコートを着ていて、片足のハイヒールだけが脱げて落ちていたのを覚えています。
ギギ
ギギギ
ギギ……
どうすればいいかわからなくて立ちすくんでいると、風一つないにも関わらず、背を向けていた女性の首吊り死体がゆっくりと回転し始めました。
目を離すことも逃げ出すことも出来ず、首吊り死体がこちらに向くのをただただ見守りました。長い黒髪が前にダラリと垂れていて、顔がまったく見えません。
そして、彼女の体が完全にこちらに向いたその時です。彼女が項垂れていた顔をじんわり上げ、ニッと私達に笑いかけました。顔を上げた事で髪が少し横に流れ、その口元だけは見えたのです。
「うわぁぁぁぁぁぁあっ!」
私達は一目散に今きた山道を駆け下り、私の家に戻って母親に今起きたことを必死に説明しました。
最初はいまいち信じてない様子の母親でしたが、2人で何度も何度も「警察を呼んでほしい」と懇願したので、根負けして通報してくれました。
首吊り死体は、結局見つかりませんでした。
私達が見たのは、一体なんだったのでしょう。
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