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「高橋良次さん、あなたにはここでの選択権はないに等しいです。18時にこの部屋を出てください」
良次は章太と顔を合わせれば言い合いになった、その息子の不運の原因が自分だったのかもしれないと思うようになっていた。息子をダメなやつと決めつけ叱りつけていたが、あの頃の自分の対応が違ったなら、全く異なっていたかもしれないと。
契約社員だったとしても、それを応援していれば、どこかで正社員の道が開け、自信を持って生きていたかもしれない。手先が器用だったから、それを生かせる道を見つけてやれたなら、今頃は職人だったかもしれない。
良次のように息子のために何かやっていればと考える時点で、すでに親として正しいのかどうか。我が子の自発性を、生き抜く力を信じて見守ることができなかった良次たち夫婦が、多喜子の過分の愛情が、彼の今の状況を作ることになったと言えなくもない。
就職難で沈み込んだ団塊ジュニア世代をすくい上げられたのが、親世代だったのではないだろうか。自分たちさえよければと言わないまでもさまざまな問題を先送りにし続けた。そのツケを払わされるであろう後の世代のことを考えていれば、少しはマシだったかもしれないが、どの世代も未来を観る想像力など持ち合わせていなかった。
「なあ、多喜子。俺は間違ってたのかな。俺たちはダメな親だったのかな。俺はあいつを殺そうとした。残していくわけにいかなかったから。生きててよかった、生まれてきてよかったとあいつが思える未来があるといいな」
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