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               ***  空色の同じような車が何台か並んでいた。その前に老人たちが集合していた。 「杏香、何故ここに?」 「紅香こそ」 「私はもうやることがないし、この先、杏香の大切な娘たちに世話をかけるのはイヤなの。あなたには妻として母としての仕事が残ってるじゃない。早く戻って」 「晴司を返そうと思って」 「はあ? 何を言ってるの」 「私が自分で飛び込んだの、ガラスに。紅香のせいじゃなかったのよ。正春(まさはる)のこと覚えてる? あいつ紅香に告白してフラれて、すぐに私のところに来て『杏香でもいいんでつきあってください』って。バカにしてる」 「好きだったのね」 「知っててフッたんでしょ。私がかわいそうだからって」  紅香は杏香のために断ったわけではなかった。彼女が誰かとつきあうのがイヤで、わざと杏香の気持ちを教えた。中学生の正春に紅香と杏香が同じじゃないこと、違っているようで同じだということがわかるはずもない。杏香がガラスに飛び込んだのはやはり自分のせいだったのだと紅香は納得した。 「今も晴司のことを、好きなのでしょう? 晴司も紅香を……」 「杏香の夫だとしか思ってない。杏香は晴司さんの気持ちを訊いたことないの? さっさと戻って訊いてみて。 杏香がびっくりするような言葉が返ってくると思う。それを訊かないのは一生の損、損だから」  紅香に晴司の気持ちなど想像もつかないが、彼ならとっておきの言葉を杏香に与えてくれるはず、そう信じている。彼女が少しでも長く幸せに暮らして欲しいからここに来たのだ、その思いが彼女に届かなくとも。
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