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いよいよ、手放す時がきた。認める時がきた。
手放す時には、痛みが伴うだろう。
認める時には、覚悟が必要だろう。
「世界には、自分以上の実力者が五万といる」
頭では分かっているつもりだった。
だが、認めるわけにはいかなかった。
歩いていくためには、目指していくためには、自分が一番と信じなくてはいけなかった。
いやーーーー本当のことを言おう。
事実を突きつけられるのが怖かった。
才能がない、と。
今なら思う。好きと才能が一致している人を、心から羨ましく思う。
でも、自分は手放さなくてはならない。
守るべきものが出来たから。
私は、視線を下に向けた。
私の指一本を、手のひら全体で掴む小さな手。
惜しげなく向けられる無垢の笑顔。
全身全霊で信頼してくれる、存在。
この子を前にしても、少しだけ戸惑ってしまう。
それだけ、長い間執着......そう執着していたから。
次に、これを持つのは一年後。
夢を諦めた私に、この子は変わらぬ笑顔を向けてくれるだろう。
その一瞬を切り取るために、私はきっと手に取る。
ーーーーこのカメラを。
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