私が彼を気に入らない理由

1/7
10人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ

私が彼を気に入らない理由

 ―― 一体、この人の何が気に入らないのだろう。    これで三度目となるスーツ姿の相手との対面に、やや濃く感じるコーヒーを飲みながら梨花は内心首を傾げた。  午後に一息つくにはちょうどいい時間帯であるためか、オフィスビルが林立する一角にある商業施設のコーヒーショップは、仕事をしているのかサボっているのかわからないサラリーマンらしき人々と、音楽を聴きながら勉強しているらしき学生でほどほどに賑わっていた。  梨花(りか)も、生成りのブラウスに薄手のカーディガン、控えめな膝丈フレアスカートというごく普通の私服OLのような格好なので、仕事の打ち合わせのように見えるかもしれない。  相手は黒革のビジネスバッグを探り、資料らしきものが入ったクリアファイルを取り出したが、すぐに渡そうとはせず、ためらうように視線をさまよわせ、ちらりちらりと梨花の様子を窺ってくる。 ――こういう、気弱なところが、気に入らないのだろうか。  見た目は悪くないのに、と酷い感想を抱きつつ、言いたいことがあるのなら、はっきり言えばいいのにと思う。  二十代後半と思われる、真面目そうな風体のビジネスマンがおどおどしていると、ものすごく挙動不審に見える。  秋の冷えた空気に似合う、やや焦げ茶に近いフランネル素材のスーツと太めのストライプのワイシャツ、深い青のネクタイとなかなか洒落た格好であるから、余計に落差が激しい。  梨花は、下がり気味の目尻となかなか肉の落ちないふっくらした頬のせいで、ふんわりおっとりした雰囲気に見られるが、実は気が短い。  さっさとしろ、と無言の圧力を込めてじっと見つめれば、相手は慌てた様子で手にしていたものを差し出した。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!