私が彼を気に入らない理由

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――そういう、気弱そうに見えて実は強かなところが、気に入らないのだろうか。 「分析の結果、やはりハズレはないようですし、きっとお気に召していただけると思います。ぜひ、こういった催しもご検討いただけないかと……」  梨花は、資料に並ぶ膨大な数の店の名前を見つめながら、毎年秋の一定期間、街中の公園で開かれる野外フェスティバルの光景と食欲をそそる匂いを思い返した。  異国の料理やB級グルメ、地方の特産品を使った独創的な料理などを提供する露店がずらりとならび、更には各地で生産されている地酒やビール、ワインもワンコイン程度で味わえる。都会にいながら各地の味を堪能でき、ビアガーデン以上に梨花を魅了してやまないイベントだ。 「今年の公式サイトもできていたので、さっそくチェックしてみました」  そろそろ、情報が解禁されるはず。あとで公式サイトを検索してみようと考えていたところで、すっとカラフルな資料が差し出された。  座り心地のよいソファーにやる気なく身体を埋めていた梨花は、ちらりと見えたフェスティバルの文字に気付いて身を乗り出す。これから検索しようと思っていたサイトの情報を印刷したもののようだ。 「これ、ちょうど、チェックしようと思っていたところでした」 「もう、パンフレットも手に入るようです。今年も、日替わり、週替わりでいろんな店が出るようですが、目玉はこちらでしょうか。一昨年オープンしたばかりのフレンチレストランで、シェフは本場の三ツ星レストランで修行した人物。店舗は予約もなかなかできないですし、気軽に行くには値段もちょっと高いですし……」  すでに一度目を通したらしく、大きく取り上げられている記事を示す。 「そうなの! 何度か友達と行こうと計画したのだけれど、毎回予約できなくって……」  梨花は、悔しさそのままに同意した。  細く長い指が指し示したのは、梨花が半年ほど前から行きたいと思っていたフレンチレストランの記事だった。
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