曖昧な日常

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二人が話す内容を理解した私は、部屋をぐるりと見回してみる。 部屋にはテーブルとソファーしかなくて、カラオケの機材やテレビもない... 普通に食事をする為の個室にしか見えなかった。 ...この部屋でカラオケ? その不安に気づいたように、彼が重そうなメニュー表を私へ見せて小さく笑っている。 近くに行ってそのメニュー表を覗き込んでも、まだここでカラオケが出来るとは思えなかった。 そんな私の腕を芽衣は引っぱり、彼の向かい側のソファーに座らせた。 ソファーへ座ってもまだキョロキョロしていると、彼と目が合ってしまい、クスッと鼻で笑われてしまった。 コンコンー さっきの店員がiPadとデンモクと何かのリモコンを2つにマイクを置いて出て行った。 「本当にカラオケ出来るんだ...」 その私の声に少し笑った彼は、テーブルに置いてあるリモコンを操作してスクリーンを下ろし、デンモクを私に渡して来た。 「好きなだけ歌いな...」 そう言った彼はソファーへ深く座り直し... 一度芽衣へ断りを入れ、煙草に火をつけていた。 そのひとつひとつの仕草がとても綺麗で...私はそれを目に焼き付けるようにジッと見ていた。
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