第一章 天使の日常

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 この街にある教会併設の修道院、そこの敷地の片隅に、天使は降り立った。  きょろきょろと周りを見渡して、誰もいないのを確認した天使は、手首に着けた暗赤色のロザリオに手を当てて小さく呟く。 「フェリーチョ、エスタス、ディヴィーガ、ポル、チヴィート」  すると、天使の翼と仮面は光の粒子となって消え失せ、そこに立っていたのは、若草色の髪が可愛らしい顔を縁取っているひとりの少年修道士だった。 「んん……眠い……」  目を擦りながら、彼は欠伸をして修道院の方へと歩いて行く。  天使の姿を借りた天の使いとして街の平和を守るようになって早一年、犯罪の増える新月の夜に徹夜をして飛び回ることにも慣れたけれども、それでも彼はまだ沢山の睡眠を必要とする子供だ。  先日十三歳の誕生日を迎え、それを他の修道士や修道士見習い、神父様に祝われ、今年から正式に修道士になったと言う事も相まって、大人の仲間入りをしたのだと、そう思った。  けれども、こうやって夜明かしをした時にどうしても眠くなってしまうのを体感すると、まだ大人には一歩とどかないのだなと実感してしまう。  ふと、鐘の音が鳴った。 「あっ、朝の勤めが始まっちゃう!」  思わず足を止めて、聖堂のある教会の方を向く。すると、修道院の方から声が掛かった。 「やあエルカナ君おはよう。 朝の勤めには間に合ったのだね」  名前を呼ばれた少年、エルカナは、笑みを浮かべて振り向く。そこには、ゆっくりと歩いてくる神父様の姿があった。 「おはようございます神父様。なんとか間に合うように帰ってこられました」 「昨夜は疲れただろう。私が話を通して置くから、勤めと朝食が済んだら部屋でお休みなさい」 「はい、ありがとうございます」  言葉を交わして、笑みを交わして、エルカナは神父様と並んで教会へと向かった。
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