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傍らに書物を置いて
「ねぇ、棟梁。なんか、また話を聞かせておくれよ」
「馬鹿、なに言ってやがんだい、棟梁じゃねえって言ってんだろ。棟梁は、この雨で一旦、家に引き上げちまったよ」
江戸の片隅で、大工見習いの若者が、暇をもて余した近所の小僧にせがまれております。
「なんか、また話を聞かせておくれよ」
「ま、棟梁にも雨があがるまで留守番をして、雨があがったら知らせろって言われてるだけだし。またなんか話でも聞かせてやるか」
小僧は喜んで若者の手をひいて、建てている最中の家屋に、我がもの顔で入っていきます。若者は読みかけていた書物を傍らに置いて、二人はどかりと腰をおろしました。
「青表紙を叩いた者にはかなわぬ、っていう諺を知ってるか?」
若者は少し得意げな顔で小僧に尋ねます。
「あお?あおびょうし?いったいなんだい、それ?」
「そうか、そうか。じゃぁ、話してやるとしよう」
若者はゴクリと水をひと口飲んで、話し始めました。
「あるところにな、金物屋さんがあってな、そこに三人の腹違いの息子がおったんだとよ。あっと、腹違いって意味、わかるか?」
「三人とも腹が違うんだろう、一人はデブで、もう一人はガリガリ、残りは真っ黒なのかい?」
「馬鹿だねえ、そうじゃねぇよ。母親が違うってことだよ、ま、いいや、大事なとこでもねぇから続けるぞ」
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