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二人を守る屋根には先ほどから、ずっと雨が激しく打ちつけております。
「一番上が赤兵衛、二番目が黄兵衛、三番目が青兵衛っていう三人の金物屋の息子たちの話だ」
「なんとも、安易な名前をお付けになったんだね、その金物屋さんの親父さんは」
「いちいち突っかかるなぁ、この小僧は。ま、いいや、その一番上の赤兵衛は、どうにも性根の悪い奴でな、商売の跡を継いだとたんに悪いことばかりしやがって、あっさりとお縄になっちまったよ」
「お縄にね、奉行に捕まっちゃったってことだろう」
「そうそう、よくわかってんじゃねぇか。ほんでもって、次に二番めの黄兵衛が跡を継いだんだが、これは性根は悪かないが、どうも意地が悪い」
「そりゃ、周りが大変だろうねぇ。どうせなら奉行に捕まるくらいの悪いことをしてくれたら、赤兵衛みたいにすぐに居なくなるんだろうけど、そういう訳にはいかないだろうし面倒なことだろうに」
「そうそう、えらい物わかりが早えじゃなぇか。意地悪っていうのは、タチが悪いんだよ。黄兵衛が客に釣り銭を渡すときには、いつもちょっと足りないんだよ、もちろん文句を言やぁ、ちゃんと足らない分を払ってはくれるんだが、客たちもいちいち面倒になって、やがて客も寄り付かなくなっていっちまったわけよ」
「黄兵衛は、それをわざとやっているのかい?」
「そりゃ、黄兵衛本人にしかわからねえことだけど、客からすれば、わざとじゃないにしても気分の良いもんじゃねぇだろうよ」
二人の周りには、先ほどから材木のなんとも芳しい香りが立ちこめております。
「おまけに黄兵衛は、よく知らないことをあたかも確かなように言いやがるから、客たちも信用ができねえんだよ」
「ある意味、赤兵衛よりも罪作りだね、その黄兵衛って奴は」
「そうやって、意地が悪くて、いい加減なところが黄兵衛にはあったから、商売はどんどんうまくいかなくなって、金物屋で働いている連中もしまいには怒っちまって、金物屋の親父に掛け合って、とうとう黄兵衛を店から追い出しちまったんだよ」
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