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最初に聞こえたのは、急ブレーキとクラクションの音だった。
次いで、ドンッという鈍い音と誰かが飛ばされていく気配。
振り返ると、広がっていたのはアスファルトを染める赤。
赤、赤、赤、あか、アカ…………――――
そして、真っ赤に広がった赤の中に見た。
赤に沈む美咲の姿。
子供の落書きみたいに怪奇な格好でピクリとも動かない。
その姿を見て、死んだのだと理解させられた。
光景が、音が、匂いが、事実なんだと投げつけてくる。
押し寄せてくる。
抗うことは許されず、飲み込まれる。
そこから先の記憶は、今思い出すまで遥か彼方へ消えていた。
#主人公「思い……出したっ」
そうだ、あの日のこと、どうして今まで。
#美咲 「仕方ないよ」
#主人公「仕方ないって、なんでそんなこと言えるんだよ」
#美咲 「あんなのを見ちゃったら、ね」
どうやら美咲は自身の死体を見てしまったらしい。
それほどショックは受けなかったと美咲は語る。
#美咲 「私、死んじゃったんだって、逆に受け入れちゃったんだ」
そんなのって、あるかよ。
#美咲 「そんな辛そうな顔しないで」
今にも泣きそうな顔で微笑まれても、どうすれば良いか分からないよ。
#美咲 「私は良いの、もう分かってるから、けど……」
君はもっと、辛いでしょ?
彼女は笑って言った。
#主人公「確かに辛い、それは事実だ。けど美咲ほどじゃない」
きっぱりと、答えた。
と、同時に花火は最高潮の盛り上がりを見せている。
次々に上がる花火と、おなかに響く轟音も今はどこか遠い。
あぁ、花火が終わってしまう。
#美咲 「もう少しで、終わりだね」
#主人公「……そうだね」
#美咲 「最後のお願い、ううん、約束守ってくれてありがとう」
最後の一発が打ちあがった。
#美咲 「君と、もう一度花火を見れた」
#美咲 「君と、最後に花火が見れた」
空を見上げてまた、振り返る。
#美咲 「君は、こうなっちゃダメだよ」
#主人公「どういう、こと?」
#美咲 「君も、もう死んじゃってるんだよ?気づいてないの?」
それだけ言い残して、彼女は消えていった。
耳の奥に「さようなら」の言葉が反響し続けている。
再び闇に包まれた森に一人、立ち尽くすことしか出来なかった。
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