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新元号
わたしは、世間から有識者と呼ばれている。実情は単なる御用学者で、時の権力者の意向に沿った意見・提案を、さも第三者のような顔をして述べるのが仕事である。そのことによって、高額な報酬と大仰な肩書を得ている。
今のわたしの役目は、「平成」に続く新しい元号を提案することである。いくつかの候補を提出して内閣に決定してもらわねばならない。
わたしのほかにも何人かの有識者が同じ作業をしていることは知っている。しかし、新元号はぜひともわたしの案から決定してもらわねばならない。今の地位を守り、さらに上を目指す為には譲れないのだ。そのためには総理の意向をいかにくみとるかがカギとなる。
わたしは考えた。後世の人がどう思おうとどうでもいい。とにかく一番気に入ってもらえる案を出すことを。 〇〇が始める、正しい、治める・・・。
最終提出日、わたしは三つの候補を提案した。「安始」「安正」「安治」である。
わたしの案を見た総理は言ってくれた。「流石ですね。今後も色々お願いしますよ」
その日が来た。
新しい元号を官房長官が見事な筆さばきで書いていた。『安治』
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