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 そのロボットがジャックの前に現れたのは一週間ほど前のことだった。 イーストピースの壁近くでゴミさらいを続け、意味のあるのかどうかわからない命を繋ぎ止めていたジャックはその日、借りぐらしの宿として使っている廃車となった赤いスポーツカーの中でカーステレオから流れてくるミュージックに耳をすませていた。 煩雑で下品だが嘘のない赤裸々な歌だった。たまたま流れていたラジオなのでもう二度と聞くことはできないだろう。だからこそそんな騒がしいミュージックでも好ましく耳を傾けることができるのかもしれない。 いや、これは実際いいミュージックじゃないか、とジャックは思った。そうだ、ハンマーを振り下ろしてやればいいんだ、こんなくだらない世の中を創った神様とかいうやつらにさ。  その時、ジャックは知らなかったが、彼の頭上へ向けて一つの物体が飛来していた。それは重い金属の塊でできていて、コントロールされながら時速200キロで滑空していた。 そしてジャックの赤いスポーツカーの上で静止すると、10メートルの高さから落下した。 ジャックからすれば、まるで頭の中の声を神様が聞いていたかのように、車の屋根が騒音とともに突然ひしゃげた。目の前が突然歪み、体がそこら中に何度も打ち付けられ、カーステレオが止まった。 意識が朦朧とした状態で、何かが自分の右腕をつかみ上げるのを感じたが、体を動かす気力もなかったので、ただほんの少しうめき声をあげただけだった。 「ジャックを発見」  イライラする合成音声でそんな言葉が聞こえた次の瞬間、赤いスポーツカーは爆発した。だから次に目を覚ましてからもしばらくは耳が聞こえなかった。 その爆発で最新鋭の機能とデータの多くを失ったロボット2-OYZはしかし、ジャックの体だけは守った。 だからといって褒められるものでも無い。そもそもその爆発を起こしたのは彼なのだから。 元々人ひとりを軽々運べるレベルの飛行能力と軍隊に匹敵する戦闘能力を有していた彼は今やただの自動歩行ナビゲーターに過ぎない。 ゴミ溜めの世界で酸性の油雨に打たれ、そのボディはもう少しで周辺のゴミクズと区別がつかなくなるだろう。 そういったいきさつで出会った救世主たるロボットのことをジャックはインチキロボット、略してチキロと呼ぶことにした。
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