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「い、いやそれがさ。その子にトイレの場所聞こー、と思ってその子が入って行った部屋に入ったら、そこシャワー室でさ!着替えてるとこ見ちゃって怒られたよ」
ナハハと笑いながら言った。言ったが、周りの反応が予想と違う。
皆無言でこちらを見つめてくる。騒がしかった職員達まで一斉にこちらを見ていた。
黙っている。だがはっきりと心の声が聞こえた。
──俺達のナタリアに何してくれてんねん。
と。
そんな中母さんだけは「その子はここのアイドルなのね」と大爆笑。
そして一番予想外の反応をしたのは、ガシッと手を握ってきたシダユリである。
「写真は?」
「へ?」
「写真、撮ってない?」
「撮ってないよ!?」
叫ぶと、「くそっ」と目に見えて落ち込んだ。
「はぁーあ。あの白雪肌を拝めたなんて羨ましい」
ムッスーと頬を膨らませるシダユリは、呆然としている俺に笑った。
「私、子供が好きって言ったでしょ?」
「え、うん」
「あれは『付き合う対象として好き』という意味よ」
「え、えぇ?」
「そして私は女の子が好きなの」
「え、あう......え?」
「つまり私は小さい女の子が好きなのよ」
▽
「そういう人もいるんだなぁ」
いくらキャスターでも学校には行けと、本部を出た俺は、母さんと一緒に街を歩いていた。
「全然わからないや」
女の人なのに女の人が好き。
女の人は男の人と愛し合う。お姫様は王子と結ばれる。絵本やアニメはそんなことしか教えてはくれなかった。
「......そうね、ところでユウキは〈キノコの森〉と〈タケノコの村〉どっちが好き?」
住宅街を歩きながら、母さんは唐突に聞いてきた。
「いきなりどしたの。んー、キノコの森だな」
「じゃあキノコの森の、チョコの部分かクッキーの部分どっちが好き?」
「......クッキー。なんならあれだけで食べれる」
「そんなもんよ。愛する対象の違いなんて」
ふと話が元に戻った。いや、母さんはハナから話をそらしてなどいなかった。
「この世には、〈キノコの森好き〉と〈タケノコの村好き〉がいるの。そこからさらに、〈チョコ部分好き〉、〈クッキー部分好き〉に別れるわけ」
「そうだね」
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