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「〈キノコの森好き〉で〈チョコ部分好き〉の人もいれば、もちろん〈タケノコの村好き〉で〈チョコ部分好き〉もいる。
〈女の人〉で〈男の人が好き〉な人もいれば、〈女の人〉で〈女の人が好き〉な人もいるのよ」
「その程度よ。ま、子供に手を出したら犯罪だけどね」と、母さんは笑った。
▽
「わっ、どうしたのユウキその傷」
クラスメイトに聞かれ、「自転車でこけた」と嘘つくこと数十回。
ウトウトしながらも学校を乗り切ったオレは、遊びの誘いを断って校門を出る。
真紅のスポーツカーがオレを迎えに来ていた。
運転席には若い男性。伸ばした前髪で目が見えない。
「はじめまして。僕は男鹿優。司令官補佐をしている人だ。よろしく」
「うん、よろしく」
二人目の司令官補佐は優しい声をした男性だった。
乗ったことのない、最高にカッコいいスポーツカーは、車高の低さから物凄いスピードが出ているように感じる。
車内までカッコいいとはどういうことか。ハンドルからモニターまで、洗練されたフォルムがある。
アクション洋画の主人公が乗ってそうなそれは、しかしバックミラーに吊るされた小さなぬいぐるみが多分に柔らかくしていた。
「男鹿さん、これ何?」
信号で止まった彼に聞く。
「シダユリみたいにオガユウって呼んでよ。ん?あれ、知らない?」
ぬいぐるみは、黒髪ツインテールの女の子。木魚を持って綺麗な笑顔。
「えぇ、わかんない」
「そっか、それはね──」
ここから、やんわりと喋る彼の口調が加速する。
「毎週土曜26時開始のオリジナルアニメ〈魔導戦姫ドグラマグラ〉の魔法少女の一人、マジカルブラックこと〈六号室モヨコ〉ちゃんだよ」
まくしたてるように言った彼に、思わず「えっ?」と聞き返してしまう。
「世間的には主人公の〈七号室ドグラ〉が人気なんだけど、僕はやっぱりモヨコちゃんだよね。第3話の衝撃的な登場で一気に好きになったよね。あと個人的には14話のCパート、『一千万年前が流れ込んでくるゥ!!』は最高に痺れたよね。あの狂気と可愛さのコントラストが見事だよね」
そこから十分間、推しについて語られた俺は、見ていないアニメについてやけに詳しくなった。
最後に、「三次元の女性は、裏切るんだよ。でもね、彼女らは決して裏切らないのさ......」と死んだ目で言った彼の過去に心底の同情を送った。
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