2話

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そう答えたスズリはスーツケースを受け取り、表面を撫でる。 「前のはすみません。俺がもっと......」 「いや、誰かを守って壊れた(しんだ)なら、あいつも本望だろうさ」 おそらく昨日壊れた装備のことだろう。部屋の奥を良く見ると、配線むき出しの傷ついたそれが置いてあった。 「それにマーク8は新たな改良もしておる。新たなギミックも付けておるから試してみるといい」 そう言うとメカニックは、今度はこちらを向いた。 「さて小僧。名前は、焔音ユウキと言ったな?」 なにやら書類を見ながらのその問いに、「うん」と答える。 「突然だがユウキよ。昨日受けてもらった検査の結果、貴様はキャスターではない」 「「はい?」」 その驚きの声は、スズリからも同時に出た。 「ん?もう一回言うぞ?ユウキはキャスターではない」 「い、いやメカニック。それは無いと思います。俺は目の前でこいつがキャンサーを倒すのを見ました。その時本部でもキャスター反応をキャッチしています」 そう反論したスズリに、メカニックは腕を組む。 「そうじゃの。確かに此奴は言霊の力を使い、能力を発動した。じゃが」 書類をこちらに見せると、一枚の画像を指差した。 俺の胸部のレントゲン写真か。一箇所赤く丸されている。 「此奴が持っている言霊保管機関、ワシらは〈霊蔵庫〉と呼んでいるが、そこに一切言霊が保管されていない」 驚いた顔のスズリと対象に、オレは早くもついていけなくなっていた。 キョロキョロと二人の顔を見るオレに、スズリは説明を始めた。 「つまり『キャスターは霊蔵庫から言霊を取り出し戦う』のに対し、君は『霊蔵庫に言霊が無いのに戦えている』ということだ」 「なるほど」 「うむ。ユウキよ、貴様が能力を発動した時、何が鍵となった?」 「死んじゃったオレの父さんが残してくれた言葉を叫んだこと、だと思う」 「やはりそうか。恐らくだが、貴様が使っている言霊は〈遺言霊〉と呼ばれるものだ」 「〈遺言霊〉?」 「人の言葉には言霊が宿るとは聞いたな?遺言霊とは、大量の言霊が宿った言葉を聞いた者の胸に、その言葉を覚えている限り溢れる、言霊と同じ力を持ったものじゃ」 「『あの日の言葉が力をくれる』というのは、遺言霊が起こしたことだと言われているんだ」 スズリが補足し、オレはなんとなく理解をした。
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