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私と彼女
その日は太陽がより近く感じる日だった。
空は雲ひとつなく、セミの鳴き声が聞こえ、目を薄めると道が斜めに歪んで見えた。
普段よりも長くセットをしてきた髪は鬱陶しく、どこから見ても完璧な、隙を見せない化粧も溶けているように感じ、何よりも彼のために履いてきたヒールのせいで足は悲鳴を上げそうだった。
「ねえ、大丈夫?もう少しで着くからね。疲れたら言ってちょうだいね」
「うん」
娘のハルは今年で11歳になる。子どもと言うのは泣くのが仕事だから、赤ちゃんの時は、親の寝る時間なんて無くなるのが当たり前なんだと思っていた。でも彼女はほとんど泣かなかった。わがままを言うことも、転んで怪我をしても泣くことはなかった。
彼女には反抗期というものもなく、何か言われたらそれを黙って聞いてしまう子だった。
だから彼女は私以上に落ち着いているように見える事があったし、彼女がすごく大人に見えてしまう事もあった。
彼女はあまり笑うことがない意外、黒色の綺麗な髪質に、彼女のどれを見ても整った顔立ちをしていて、将来は男の人が放っては置かない女性になるだろうと思っていた。
そして私は何よりも彼女の目が好きだった。
大きな二重の目をして可愛いのと同時に、目の奥には人の真理を見抜いているような、とても鋭く真っ直ぐな目をしていた。
いつもお話をしたくなる私と違って、彼女は自分から話すことが滅多になく、
聞かれたことを簡潔に、シンプルに答えるだけだった。
始めはそういった彼女を不安に思っていたけど、どうやら彼女はお話をすることで他人との信頼を築いていくのではなく、顔や話し方とは違った、雰囲気で相手の事を理解しているんだと彼が教えてくれた。
私にはそういったことがよくわからないから、悩んだと同時にそれがわかる彼に嫉妬すらしたことがあった。
待ち合わせの場所に着くと、そこにはもう彼の姿があった。
娘は「お父さん」と言い走って彼に抱きついた。
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