2人が本棚に入れています
本棚に追加
朝は苦手だった。
身体は重たいし脳みそがまだ眠たいと訴えてくる。悪魔というのは朝から生まれたんじゃないかと思ってしまうほどに。
僕が大学生の時はこんな朝早く起きることなんてまずなかった。
当時、起きる時はいつも朝というべきなのか、お昼というべきなのか分からない時間で、
電車にはもうサラリーマンの姿なんてまばらで、満員電車なんていう習慣そのものが僕にはなかった。
夜眠る時間もバラバラだった。ご飯を食べて、お風呂に入り、灰皿を窓際に置いて外の景色を見ながらタバコを吸う。
それからは眠たければ寝るし本を読みたければ読む、音楽を聞きたければ聞いていた。そこに予定やスケジュールなんてものはなかった。
だけれども大学を卒業して、社会人になって、結婚をして子どもができれば話は変わっていった。かなり大きく。
朝起きる理由、仕事へ行く理由、生きていく理由が何もかも変わっていくのだ。
それが僕にとっていい事なのか、あるいは悪いことなのかなんて分からない。
もう一度人生を歩んでいけるなら結婚をしない人生を歩んでみたい。
だけれど、僕は離婚をして子どもから離れて一人になりたいとは思わなかった。幸せだからだ。
そこから生まれる幸せ、という理由だけで僕は重い身体も眠たいと訴えてくる脳みそも乗り越えていくことができた。
二人はまだ寝ている。僕は音楽プレーヤーを点けてアート・ブレイキーのモーニンを小さな音量でかける。
朝にテレビを見なくなったのはいつからだっけ、そう思いながら洗面台へ行き歯を磨き、ヒゲを剃り、顔を洗う。前日はあまり眠ることができなかったから、いつもよりも手の感触が粗く感じた。
焼いたパンと前日に残ったサラダで朝食を済ませ、一度寝室に戻り二人の顔を見てから仕事へ向かった。
外を歩いている時、ふと今の時間が気になって携帯電話を取り出し時刻を見て、待ち受けにしていた妻と子どもの写真もしばらく見ていた。
今日はなんだかやけにサイレンの音が聞こえる。
最初のコメントを投稿しよう!