3 あの絵の少女

2/5
前へ
/20ページ
次へ
 おれ、今夢でも見てるのかな。あの時の絵の子が隣にいるよ。小5の当時すでに結構有名だったみたいだったから調べれば居場所なんてすぐわかると思ったのにいくら調べても居場所がわからなっかたあの子があっさり目の前に現れて話しかけてくるんだもん、夢だと思っても仕方ないと思うんだ。嬉しいやら楽しいやらで体がふわふわしてる。やっぱり夢の中にいるのかな?  彩人の横で絵麻は淡々と絵を描く準備をしている。といっても普通の準備ではない。厚手の軍手を両手に二枚重ねではめて、直径8ミリほどある太めの筆を3本とシアン、マゼンタ、イエローのチューブの水彩絵の具を画材入れから出す。そしてパレットにしては深く、筆洗いにしては浅い三つに仕切られた容器にそれぞれの色を足の小指の爪ほどの量出してから半分ほどまで水を入れて、筆で溶かした。それから一本に一色ずつ先ほど水に溶かした絵の具をたっぷりと含ませ、それを丁寧に置いてから厳重に嵌めていた軍手を外した。一連の動作は流れるように澱みなく行われた。 「ん、こんなもんかな。あ、描くとき話しかけないでね。大惨事になってもいいなら話は別だけど。」  明らかに普通に水彩画を描くのとは異なる用意を一通り終えた絵麻が彩人に向き直って淡白な口調で話しかけてくる。  えっと、いまのが当たり前みたいにしてるけどちょっと待って。 「あのさ、描き始める前に何個か聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」 「ああ、聞きたいことは大体わかるよ。みんな同じ事聞くから。でも口で説明されるより実際に見たほうがよくわかるし面白いと思うよ。」  そっか。確かに聞くより見たほうがいいよな。それによくされる質問して悪かったかも。 「ごめん、そうするよ。」 「じゃあ、描くね。絶対話しかけないでね。あの!あなたがたも!静かにしてくださいよ!」  彩人と、教室を取り囲む野次馬に再度話しかけないよう念を押してから、絵麻は目を閉じて3回深呼吸をした。それから目を開いて目の前に用意してあった真っ白なキャンパスを見つめながら置いていた3本の筆を手に取った。  
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加