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キミに告げる5秒前。
八月某日。うだるような暑さが厳しい日だった。
彼女に一秒でも早く会いたくて、屋上への階段を駆け上がる。
――小さいころから好きだった。
だけど、断られることが怖くてずっと誤魔化してきた。
迷いも不安もないと言えば嘘になる。
本当は迷ってばかりで、不安だって拭えない。だけど、彼女に伝えなきゃいけないと言う思いが体を突き動かす。
階段を上がりきった勢いのままに、屋上の扉を開く。
雲一つない空に眩しさを感じながら、空を見上げていた彼女に声をかけた。
「依子」
「星夜、遅いよ」
そう言って振り向いた彼女は、口元を手で押さえた。
真夏の厳しい日差しが、さらされた両腕をじりじりと焼く。
彼女は夏服にカーディガンを羽織っていて、その袖口から覗く肌は雪のように白い。
――大丈夫だ。
そう、自分に強く言い聞かせる。さっきまでの勢いは嘘のように消えてしまった。
暗示なんてただの気休めでしかないけど、その気休めさえも俺にとっては不可欠で。ガタガタと震える膝を押さえ、深く息を吸い込む。
「葵くん」
高嶺の花と呼ばれる彼女の潤んだ瞳と視線が交わる。
彼女の名は、三咲依子。俺の幼馴染みで俺が好きな人。
彼女が変わったのはいつからだろう。派手な化粧に、明るい髪色と目立つピアス。
明確な何かがあった訳では無い。
時間と小さな迷いが、関係を歪めてしまっただけだ。名前も呼べなくなるくらいに。
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