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「どうしたの、葵」
中学からの友達――波留の問いに首を振る。
依子は波留のことが嫌いだった。
はっきりと口にしたことは無かったけど、それは俺も波留も気付いていた。何故嫌いなのかは分からないけど、依子が波留を嫌っていたのは事実だ。
依子は真面目で社交的な子だった。
いつも周りに人が居て、みんなの中心で。俺もそれなりに友達は多かったが、彼女は誰とでも仲良くなれるトーク力と行動力を持っていた。
その能力に先生たちも一目置いていたらしく。
クラス委員や生徒会長など面倒な役職を率先してこなしていたし、みんな依子に任せれば大丈夫だと信頼していた。
中学までは。
高校デビューした彼女は、化粧の濃い集団とつるみ、持ち前の明るさと優しさでクラスメイトたちの人気者になったのは言うまでもない。
そしていつしか『学年一の美女』なんて呼ばれるようになって、あっという間にスクールカーストのトップにまで上りつめた。
もう、気安く名前で呼ぶことなんて出来なかった。
「依子のこと?」
「うん」
ほっとけば良いのに。
そう言わんばかりの波留に、俺は言葉を濁す。
幼稚園のころから一緒に居る俺と違って、中学からの付き合いである波留にとってはその程度のことらしい。
「依子のこと、好きなの?」
「当たり前だろ」
「なら、依子のところに行けば良いじゃない」
波留はツンと攻撃的な態度でそう呟くと、フォークに刺さっていたパンケーキを頬張る。
『駅に美味しいパンケーキ屋があるから行きたい』
そう誘われたから付き合ってるのに。何だよ、その態度。
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