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むっとした俺を、彼女は何か言いたげな顔で見てくる。
確かに依子のことは好きだけど、それとこれは別の話だ。
「……別に行かないよ」
「何で?」
「お前が一人になっちゃうだろ」
「馬鹿にしないで」
フォークを握りしめたままこちらを睨みつけた波留は、カツンと勢いよくパンケーキを突き刺し口に運ぶ。
「今日誘ったのは私だけど、別に私にだって友達くらい居るんだからね」
「分かってる」
「分かってないよ。断れば良かったじゃない。私と居ても依子のこと気にするくらい、依子のことが好きなんでしょ? 告白する勇気がないのを、私のせいにしないで」
珍しくきついことを言う彼女に、何も言い返すことが出来なかった。
一緒に居る波留のことよりも、依子のことを気にしていたのは紛れもない事実だ。ぐうの音も出なかった。
「……ごめん」
「別に謝ってほしいわけじゃないけど。私を言い訳にしてるけど、本当は依子に好きって言えないんでしょ、恥ずかしくて」
「は!? ち、違えしっ」
「はいはい図星。今日中に依子に告白出来なかったら、私たちお別れだね。ただのクラスメートに戻ろうか」
「おい、止めろってそう言うの」
あからさまに挑発する波留は、愉快そうに唇を歪める。
だけど、俺にとっては楽しいはずがない。
簡単そうに今日中なんて言ってるけど、時刻はもう十五時を過ぎている。
すなわち、あと九時間以内に告白しなければならないと、俺は依子だけでなく波留も失ってしまう。
「依子は学校で妃美くんと勉強してるらしいよ。早くしないと帰っちゃうかもね」
早く行きなよ。
そう言って背中を押してくれた波留に感謝して、俺は学校に向かって急いだ。
彼女が悲し気な表情をしていたことも気付かずに。
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