指輪

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 指に嵌めた結婚指輪をするりと抜いて、内側を平平に見せる。にんまりと笑みをつくる大地を、それこそ平平は腐臭を放つごみでも見るような瞳で見た。その視線を意に介さず、大地は再びそれを左手の薬指にはめ直すと、恍惚とした目でそれを眺めた。 「綺麗なアクアマリンだろう? あいつの目そっくりだ」  澄んだ光を放つそれは、美しく、どこか物悲しい。それは出会ったときから少しも変わらず、冷たく凍りついていた。その冷気で凍りついてしまったのか、大地の想いもまた、あの頃のままで固まってしまったようだ。白い霜が降り、うっすらと張った薄氷が、大地を深い湖に捕らえ、閉じ込めていく。そうして閉じ込められてしまったのに、それを溶かす相手はもう二度と大地のもとへ戻ってくることはないのだろう。 「愛してるよ」  うっそりと笑って、大地はその物言わぬ鈍色の輪にキスをした。
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