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平平との会話を思い出しながら、大地は現状を哂った。組み敷いた頑丈な体は、その癖大地を押し退ける力すら持たず、されるがままにされていた。
「押しのけたらいいんじゃないか?」
意図的に煽れば、彼はふいと横を向き、眉を寄せた。
「どうせ、全部無意味なんだろう。無駄な体力を使いたくない」
嫌だと思えば突き飛ばせばいい。そうしないのは、受け入れているということではない。ただでさえ白い顔が、真っ青になっている。吐く息が荒い。
「……今から、俺はお前を抱くよ。それでもいいんだな」
息を飲み、押し退けようとする力は、それでもなお弱い。小さく震えるその手を掴み、ベッドに縫い付ける。その目を見つめると、彼の目は確かに怯えを含んでいる。まぁいいかと、その首筋に唇を当てる。ひんやりとした肌。どくりどくりと早い脈。
「……前から言ってるだろう。自分を大事にしてくれって」
彼の顔色が悪くなったのは、大地が刺青を刻んだ日からだった。しかし、全くそれを態度には出さず、彼は大地に悪態を吐いていた。大地も単純に体に負担がかかっているのだろうと思っていた。彼が、ふらついて壁に倒れこむようにして手を付くまで。
そこから先は単純で、弱さを見せないテオドールに苛立った大地は問答無用でベッドに彼を引きずり込んだ。彼は驚き、嫌がるような顔をしつつも、抵抗らしい抵抗をせずに大地に組み敷かれた。
「……そこまでして、俺を支配したいか? いちいち難癖つけて、辱めて……こんな面白みのない男の体を抱く程?」
冷め切ったテオドールの瞳に火を灯してやろうと、大地は好きだと言おうかと思った。しかしそんなことを言ったところで、まず間違いなくこの男は鼻を鳴らして一笑に付すだろう。大事にしてやりたいといくら愛を囁き、甘やかしたところで、きっとそれを良しとはしない。それなら、馬鹿げていると言わんばかりに斜に構え、諦めの色を強くする瞳を揺らすには別の方法をとった方が早い。
「俺はお前に、自分を大事にして欲しいだけさ」
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