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「俺はお前に、自分を大事にして欲しいだけさ」
そういう名目で、少しずつ自分を彼に刻んでいきたい思いも勿論あるのだが、それは言わずに、彼のシャツのボタンを外す。馬鹿げていると低い唸り声が聞こえたが、無視をした。ワインレッドのシャツから覗く白い肌に、舌なめずりをする。男の筋肉質な胸と、綺麗に割れた腹筋に興奮する日が来るとは思わなかったと心の中で呟きながら、大地は筋肉の隆起をなぞるように指を這わせた。その指先の感触がくすぐったいのか、ぴくりと体が動く。
「一応聞くけど、男の経験は?」
「ある訳ないだろう」
テオドールは、素肌を虫が這いずっているのを堪えるような、嫌悪と不快感を顕にした顔をし、眉を寄せている。
「俺も男はないな。まぁ、童貞ではないから安心してくれ。優しくする」
白々しい言葉に、テオドールはさらに眉間の皺を深くした。その眉間の皺をなくすように、大地は額にキスを落とした。そして、そこからゆっくりとバードキスを落としながら、右手で太い首筋から生え際のあたりを撫でてやる。テオドールはそんなまどろっこしいことをする必要があるのか、と言わんばかりの顔をしていたが、その視線に、大地は微笑みで返した。
刺青を主張するように上げさせた左の前髪はかっちりと撫で付けられ、顔にかかる右側の髪もワックスでガチガチだった。それに指を絡めると、束になっていた髪が少しずつはらはらと乱れていく。見た目よりもずっと柔らかい彼の髪は、こんな風に不自然に固められていないときに触れば手触りが良いし、前髪を下ろして流してしまえば、少し顔に幼さが加わり、印象が和らぐ。けれど、それを知るのは自分だけでいいと、髪を乱しながら大地はうっそりと笑う。
形のいい耳朶を甘噛みし、ピアスにそっと舌を這わせる。熱い息を吐きかけると体が揺れた。ぴちゃ、とあえて音を立てて耳を舐め上げれば、ごくりと喉がなるのが聞こえた。
「体の力抜いとけ。辛いのは自分だぞ」
耳元で少し声のトーンを落として囁けば、漏れる吐息。テオドールは、少しだけ引きつった声で言った。
「……ふざけるなっ」
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