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平平は、大地の姿を見た瞬間、その薄い眉がくっつくかと言う程にきつく眉を寄せ、顔を顰めた。テオドールとの約束の愚痴を話そうと思っていた大地は、あまりにひどいしかめっ面に、困り顔を浮かべざるをえなかった。
「どうした、平平」
「お前、テオドールと何かしたか」
極めて嫌そうに、彼は言った。テオドールと関係を持った際も勿論激怒したが、その時と同じ、もしくはそれ以上に苦い顔をしていた。
しかし、事の詳細を話しきったあと、その顔は表情を無くし、神妙な顔になっていた。平平は、重たい口を開いた。
「だからお前とテオドールの縁がそんなに絡んでるのか。真名はまだ呼んでないんだよな?」
その目は、大地と大地の周りを、まるで何かを透かして見るような目をして見た。彼には何が見えているのだろうか、きっといいものではないのだろうな、と顔を見て判断する。
「一生呼ぶ気はないな。俺はあいつにやりたいようにやって欲しいからな」
平平の、重たいため息が教室に響いた。
「ある意味、真名で支配する以上にタチが悪ぃな、お前」
平平の言わんとすることがわからず、大地は首を傾げた。平平は暗い瞳で大地を見つめた。
「真名は奴らの本質を表す。けど、お前は名を知らずしてテオドールの本質を理解しちまった」
彼の言っていることを大地は半分も理解ができなかった。大地にはテオドールの本質などは解らなかったし、そういう霊的なものは理解の範疇ではなかった。しかし平平は、はぁ、とまた一際大きなため息をついて、手に持ったコーラのペットボトルを煽った。放課後の誰もいない教室の中、校庭からサッカー部の掛け声が響いてくる。沈黙が、二人の間を流れた。
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