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「亜衣、どうした?」
電話の向こうで、今付き合っている彼女は大地の名前を甘ったるい声で呼んだ。あぁ、それよりもテオドールの喘ぎ声が聞きたいなぁと、電話をしながら彼を揺さぶる。声を上げたら最後、と、彼は必死でシーツを噛み締めていた。無論彼が声を上げないことなどわかっていたが、大地からしてみればバレたところで何一つ怖いことなどなかった。
「うん、ごめん、風呂入ってたから、ちょっと出るの遅れただけだって」
いつもよりほんの少し電話に出るのに遅れることすら責められる。彼女は束縛がきついタイプだったが、大地はそれに怒ることはしなかった。電話をしながらテオドールを伺えば、彼は涙目で大地を見つめ、首を振っていた。大地に頼るしか、彼が快楽から逃げる術はない。普段からは想像できないような幼い顔。
やめろということだろうと思いながらも、にぃと口元を引き上げ、一際強く中を穿ってやる。びくりと体が弓なりになる。
彼の一瞬理性を取り戻した目が、再び快楽に溶ける。こんな状況を見られたら、誰もが酷いやつだと大地に言うだろう。けれど、こうする必要が大地にはあった。
彼は、息詰まってしまうと、もう駄目だ。優しい慰めも、甘い囁きも、褒め言葉も、何一つ響かない。全く意味を成さない。ただ、瞳で訴えるのだ。苦しい、辛い、寂しい、怖い、哀しい。瞳だけで、大地に縋り付く。けれど、彼の理性が甘えを自らに許さない。
だから、酷くする。誰の物であるのかを刻みつけ、確認させ、声が枯れる程叫ばせて、無理だ嫌だ怖いと普段は隠した弱音を吐かせて。そうして、ようやく彼は安心できる。大地との繋がりを理解できる。自分の感情を発散できる。そしてまた溜め込むの、繰り返し。
優しく愛して受け入れてもらえるのなら、とっくにしている。
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