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「え、お前また別れたのかよ!?」
平平から驚きの声が上がる。大地は頬をさすりながら、苦虫を噛み潰したような顔をした。頷けば、平平が嬉しそうに笑う。彼は、今の彼女のことがあまり好きではなかった。つい先ほど別れ話を終わらせてから、平平に会いに来たのだと告げると愉快そうにした。
「あぁ、本当に別れるのばかりが上手くなっていく」
「嘘だろー、あんだけあの束縛に耐えてたっつーのに、あの女はこれ以上何が欲しいってんだ」
そう言いながらも、その顔はなおも嬉しそうだ。知らん、と大地は苦笑いで返した。別に、テオドールとの関係がバレた訳ではない。亜衣の前にも何人か彼女はいたが、大抵半年もしたら別れを切り出される。直接的原因は彼女の浮気であったりすることもあるが、結局のところ、いつも女の言い分はこうだ。
「私のこと、本気で好きじゃないくせに、だとさ。一発ビンタまで決められた」
何も殴ることはあるまい、と思うが、別れ際にひっぱたかれたことも、そろそろ二度や三度ではなくなっている。それですっきりするなら後腐れなくていいやと、あえて殴られている節すらある。
「女の勘って怖いなー、男前が増したんじゃねぇか」
けらけらと冗談めかす平平の口を引っ張ってやる。
「冗談はその名前だけにしとけよ、平平ぁ。綺麗に別れるのばかり上手になってるっての」
悪態は吐くが、特段怒りも悲しみもなかった。結局のところ、そういうところが彼女たちを怒らせ、悲しませるのだろうと言うことは、大地もわかっていた。平平もそれを分かっているからこそ、大地が別れたところで慰めてくれることはほぼない。こうして爆笑していることがほとんどだ。
「俺だって、本気で愛した相手と一緒に居たいっての」
はぁと息を吐いたところで、どうしようもない。ファミリーレストランのチープなグラスに入ったオレンジジュースを口にすると、ちり、と叩かれた頬が痛んだ。平平が苦笑いする。
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