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「テオドールは絶対に受け入れないからな」
「前、冗談めかしてお前とずっと一緒にいる方がいいって言ったら、死にそうな顔してた」
その時のそのまま身投げでもしてしまいそうな青ざめた顔を思い出しながら、大地はまた一つ溜息を吐いた。ポケットから煙草の箱を出し、一本咥える。カチャリとライターで火を点け、ゆっくりと肺に煙を吸い込んでいく。苦味と共に、ふわりと甘い香りが口の中に広がる。
「お前、煙草増えてないか?」
「テオドールも増えてる」
ふぅと息を吐くと、平平は嫌そうに手のひらを鼻の前でパタパタとして煽いだ。白い煙が霧散していく。そういえば嫌いだったなぁと、彼にかからないようによそを向いて煙を吐き出した。平平は、大地の言い訳にもならない言葉に呆れた顔をしていたが、諦めたように、息を吐いた。
「お前ら、早くそんな関係はやめちまえよ」
窓の外を見れば、雨がしとしとと降ってきていた。窓ガラスに当たった水が、ガラスを伝って落ちる。平平の言うことは無視して、大地はそちらを指差す。
「雨。お前傘ある?」
「げっ、今日、天気予報晴れだったじゃんか!」
しばらく様子を見て雨が落ち着くのを待とうとしたが、全然止みそうにもなく、雨足は強まるばかり。平平と二人、ドリンクバーで粘るのもそろそろ無理を感じはじめ、諦めて店を出ることにした。びしゃびしゃと雨は地面を濡らしている。
「……どうするよ」
「コンビニまで走るか?」
二人で顔を合わせ、げんなりしていると、人波の中、頭一つ上の場所に揺れる、見慣れた傘。ヒューィと、平平が口笛を吹いた。大地の顔にも、自然と笑みが浮かぶ。
「テオドール!」
手を上げると、彼の顔が上がる。傘を差す彼の手には、もう一本傘がある。天気予報を見て迎えにでも来てくれたのかと大地はにっこりと笑って、差し出されたそれを受け取った。
「ありがとう、助かった」
テオドールは舌打ちをしながらそっぽを向く。
「天気予報くらい見ていけ、後々洗濯が面倒になる」
そう言いながらも傘を持ってきてくれるあたりマメなのだが、それを言うと怒られるので、大地は黙った。そして、テオドールの持つ傘と自分が持つ傘、二本しかないことに気づき、手にした傘を平平に差し出す。
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