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「ほら、傘貸してやるから、後で返せよ」 「おー、でもいいのか?」  いいよ、と答えてテオドールの横に飛び込む。平平の顔が、そういうことか、と呆れたものに変わる。ひらりと彼の手が揺れ、背を向けられる。そういうあっさりとしたところも、彼のなかなか好感が持てるところだった。 「じゃあな。気をつけて帰れよ」  大地もまた、平平に背を向けて帰路に着く。平均身長以上ある男が二人。特に、テオドールはかなり大柄だ。できるだけ寄らなければ濡れてしまう。ぐっと近寄って歩く。テオドールはそれに疑問を持つこともなく、離れることはしない。ぶつかる振りをして、傘を少しテオドールに寄せた。彼の赤いシャツの肩口は色を濃くしていた。対して、大地の肩はほとんど言っていいほど濡れていない。ばしゃばしゃと水が跳ねて、二人の足元を汚していく。 「テオドール」 「なんだ」 「やるよ」  ポケットに手を突っ込んで、掴んだものをころんと彼の手のひらに転がした。あらかじめ包装は解いて、現物だけにしてある。テオドールはそれを受け取って、目を細めた。 「綺麗だな」 「いいだろ。似合いそうだと思ってつい買っちまった」  彼から傘を奪い、付けるように促すと、無言で自らの耳につけたシンプルな銀の獣の爪のようなピアスを外し、その新しいピアスをはめ直した。銀のピアスも大地が買ったものだったから、勿論彼好みではあったが、新しいそれは更にしっくりときた。
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