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「いいな、似合う」
大地は目を細めた。彼の耳元、銀色の曲線に囲まれた中で煌くアクアマリンは透き通り、光を反射して輝いた。少し繊細すぎるかと思ったそれは、彼の耳元に綺麗に収まった。
「お前の目の色にそっくりだ」
一目惚れをして買ってきたが正解だった。彼女の誕生日のために貯めていた金を、何も考えずに全額投入したが、悪い買い物ではなかったと自画自賛する。テオドールは知らずにそうか、とだけ答えた。
「そういえば、俺彼女と別れたよ」
「またか」
テオドールは呆れたような顔をした。その目の中、少しの安堵を見つけて、大地は安心する。今日も、彼は大地を愛している。そしてその癖、自分の存在しない未来を大地の幸せだと信じて祈るのだ。
だから、大地はそれに応えなければならない。彼を不幸にしないために、必要もない誰かの隣でその手を取って幸せだという顔をしていく必要があった。
「ま、次に期待だな」
いつの間にか、大地の持っていたはずの傘は彼の手の中。しかも、また大地の方に大きく傾いているそれを押し戻しながら、大地はいつまでこの時間を続けていられるのだろうと思った。
一本の小さすぎる傘の中、相手が濡れないようにしてあげたいと願い合って、寄り添いあって雨の中を歩く様な。雨が、そんな続かない未来を思う気持ちも全て洗い流せばいいと願った。願ったところで、溜まっていく水たまりのように、心の澱は溜まっていくばかりだったけれど。
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