指輪

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指輪

 その日は、青い空がどこまでも遠く続いていくような、そんな澄み渡った晴れの日だった。それはまさに、ハレの日であると言わんばかりの日だった。そう思うと、なんの皮肉だと大地は口元を歪めた。 「新郎さんの日頃の行いがいいから」  誰かが呟いた。周りにいた人々は、口々に新郎を誉めそやした。雨を降らせてくれたら、彼の代わりに泣いているのだと雫を眺めていられたのに、と、大地は思っていた。それに、きっと雨なら彼も気持ちが晴れただろう。そこにいる誰よりも晴れない気持ちを抱えながら、ちょっと一服、と大地は喫煙所に向かう。 「大地」  後ろから、声が掛かる。よく見慣れた童顔が、きっちりとしたスーツの上に乗っている。流石に、こんな日は明るく染められた髪もきちんと真面目そうに整えられている。彼の、久しぶりに見た真面目な姿は、ある種滑稽だった。彼は、灰皿の近くにある自販機で一本缶コーヒーを買った。カシャン、と軽快な音と共にプルタブが開けられる。 「よぉ、平平」  ふっと笑って、大地は煙草を口に咥えた。 「本日はおめでとうございます、か」 「俺にとっては、俺の人生最後の日だよ。母さんを安心させられるって意味では、めでたいけどな」  大地は苦笑いをした。母親の愛は柵でもあったが、救いでもあった。 「お袋さん大喜びしてたもんなぁ……」 「一人息子みたいなもんだしな。弟は親父のとこだし。弁護士になって、尽くしてくれる嫁さんもらって、俺も母さんを悲しませずに済んで嬉しいっちゃ嬉しいけども……」  本当はゆっくりと吸ったほうがうまいが、今日の大地は、らしくもなく煙を性急に吸い込んだ。肺の中を毒が満たしていく。自分の身を削って、ニコチンが与えてくれる満足感を享受するのを平平は腕を組んで見ていた。
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