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「そんな相手と、結婚するのか、お前は……お前は、本当に昔から女運が悪い」
同情の目を向ける平平に大地は奮然としつつも、それを抑えながら言った。
「結婚するよ。今日限り煙草もやめるし、深酒もしない。空いている週末は家族サービスをするし、記念日も祝う。家事もすれば育児もする。完全で完璧で、明るい理想の家庭と生活を作るさ」
フィルターに差し掛かってきた煙草を灰皿で押しつぶした。ついでに、箱に残った煙草も、箱ごと全て握りつぶしてゴミ箱に放り込む。
「それが、あいつの望みだからな」
そう言い放った大地に、平平は複雑な顔をしながらコーヒーを一気に飲みくだした。ごくりと喉が動く。その液体はきっと彼の胃袋を重たく満たしたであろう。そして、彼は苦いと一言呟いた。そういえば、彼がブラックコーヒーを飲んでいるのを、大地ははじめて見た気がする。
「そうだ、平平、これ渡しといてくれ」
平平の手のひらの上、丸い銀の輪を転がす。
「おい、これ……」
コーヒーを飲んだ時よりも更に苦い顔をして、平平は大地の顔を見た。
「本当は、結婚指輪と同じ形にしたかったんだけど、こっちのほうが似合うだろうからな」
それは、少し厳つい、太い銀の指輪。真ん中には、大きな琥珀が液体だった当時のものを閉じ込めてキラキラと光っていた。それは、テオドールとの日々を閉じ込めて光を増した。
「ナンセンスだ……」
平平が、気持ちの悪いものを見るような目で大地を見たが、大地は、ははっと一笑に付した。
「もっと気持ちの悪いことを教えてやろう」
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