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その目が見たくて大地はその名前を呼んだ。彼はどろりと濁ってなお美しい瞳を大地に向ける。唇が片端だけ引き上げられているが、それは笑みというよりもむしろ涙をこらえているように見えた。
目には見えないその涙を拭うように、頬に軽く手を添える。ひんやりと陶器のような冷たさを持った肌に、大地は心地よさを覚えた。
「必要ないよ、そういうのは」
平凡な日常の中、普通の高校生である大地に、拳銃などというものは不要だったし、暗殺などという血生臭い世界とも縁はなかった。つまりテオドールの存在自体、大地にとっては青天の霹靂、寝耳に水。イレギュラー中のイレギュラー。
「なら、俺は、要らないんじゃないか……」
テオドールがぽつりと呟いた言葉は、どこか縋るような色を含んでいた。おそらく彼自身ほとんど気づいて居ないだろう表情と声色の変化。あれ程までに使われるのを嫌がっていた様子とのギャップに、大地は怪訝な顔をしながらも、こつり、と軽く額をあわせ、まぶたを下ろした。そうすると、彼の気持ちが少しわかる気がした。触れたところからじんわりと冷えていく。その冷たさを、分けて欲しかった。
「お前が必要だ。けど、殺すとかそういうのはいい」
俺を守ってくれ、と告げると、返事が返ってこなかった。沈黙。しばらくして、額を離して顔を見つめると、戸惑いの目線とかち合う。その目に敵意が浮かび、きつい瞳に睨みつけられる。
「なんで、お前を、俺が」
しかし彼はその鋭い眼光に反して、決して大地に手を出したり、押し退けたりはしなかった。なんだ、と大地はどこか納得したような気持ちになった。彼は、モノだから、主人に持たれ、使われなければ存在意義を失う。何れ程それを本人が拒もうとも。だから、彼は大地を否定しきれないのだと、大地は解釈した。彼は、確かに大地を求めているはずだった。
しかし彼はその鋭い眼光に反して、決して大地に手を出したり、押し退けたりはしなかった。なんだ、と大地はどこか納得したような気持ちになった。彼は、モノだから、主人に持たれ、使われなければ存在意義を失う。何れ程それを本人が拒もうとも。だから、彼は大地を否定しきれないのだと、大地は解釈した。彼は、確かに大地を求めているはずだった。
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