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 どくり、と心臓の鳴る音を大地は聞いた気がした。 「たまんないな……」  ぱきん、と音を立てて心の中で何かが砕けた。それはまるで、薄氷を踏み割る音が聴こえるかの如く。どろりと隙間から漏れ出た水は、大地の心を浸し、満たした。  そうして、大地は平平が彼に言ったことを思い出していた。彼から聞いた、テオドールの真名は、とても綺麗な音をしていたこと。とても美しい意味を持っていたこと。それを使って支配しなかったのは、単純に彼自身から全てを差し出して欲しいなどという、傲慢な欲望のためだった。  大地はできるだけ優しそうな笑みを作って、テオドールに語りかけた。溢れて彼を溺れさせてしまいそうな程の想いを、胸の内に隠し持って。 『お前の全てが、欲しいんだよ』  テオドールの絶望に染まった顔の中、快楽で潤んだような瞳と少しだけ上気した頬、はっきりと感じる愛しさ。そして大地は、その感情が恋だと知った。
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