刺青

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刺青

 やめてくれ、という声を無視して、大地はその体をベッドに縫い付けた。暴れる体に、シーツに皺が寄る。どれだけ喚こうが意味がない。大地は母子家庭で、母親は夜遅くまで働きに出ている。まだ日は高く、彼女は帰って来ない。彼が人から銃に姿を変えてその場を逃れる唯一の理由は今はない。 「俺は前から言ってるよなぁ? そういう怪我するんじゃないって」  テオドールの体には、青あざが出来ていた。いくら頑丈だからといって、あっという間に治るものでもない。今日、階段から落ちた大地を庇ってできたものだ。 「お前が、俺に守れと言ったんじゃないか」  強い視線で大地を睨めつけるが、彼の視線は大地にとっては痛くも痒くもなかった。テオドールという人ならざるモノが傍にいるせいか、はたまた霊感が強いとか言っている平平のせいなのか分からないが、大地の周りにはやたらと霊障というやつが増え、それを避けようとしたテオドールが怪我をすることが増えた。大地にとっては、テオドールが自身を守ってくれること自体はありがたかったが、それによって彼が傷ついていくのは耐え難かった。 「お前は俺のものなんだから、お前には傷つく権利すらない、そう言ってるだろう?」  きっぱりと言い切った大地に、呆れたような顔をしながらも、テオドールはとうとう抵抗をやめた。 「誰のものか、きっちりわかるようにしてやるから」 「……今度はなんだ」  にっこりと笑う大地にテオドールは嫌悪感を顕にしたが、それがポーズでしかないことを、大地は出会ってからの数ヶ月で既に学んでいた。決して心を許さないように見える彼は、その実全ての権利を大地の元に投げ出してしまっていた。  前も同様の理由で耳にピアスの穴を開けたが、その時も抵抗らしい抵抗をせずにそのまっさらな耳に新しい傷跡を刻ませた。服を贈った時も、文句こそ言ったが、着続けている。  彼のシャツをはだけさせ、その上に乗り上げる。真っ白な肌は、何をしても美しく映えそうだった。  美しい弧を描く喉元と、くっきりと刻まれた鎖骨、そして、やはり美しい瞳が目を引いた。そこを、跡を刻むようにそっと撫ぜる。 「ここにしようか」
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