刺青

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 そう言って、大地はベッドサイドにおいてあった筆を手にとる。その細い筆をさらりさらりとテオドールの肌を撫でるように白を黒に変えていく。その筆先の感触がくすぐったいのか、テオドールの吐息が断続的に響く。まるで喘いでいるようだと、情欲をそそられたが、深呼吸してやり過ごす。時折耐えかねたように身を捩るので、手元が狂ってはいけないと、大地はしっかりと肩のあたりに馬乗りになり顎を固定した。幾本かの線が彼の左の目元と首筋を彩ったとき、大地はその手を止めた。 「落書きなんかして、どうするんだ」 「落書き? いやいや、これから本描きするんだ」  大地は、そっと微笑んでベッドサイドにざらりと器具を並べた。通販で購入したそれは、いつか使おうとそっと準備しておいたものだ。ちらりとそれを横目で見たテオドールは一瞬戸惑った顔を見せた。  そこには、柄が金属でできた筆と墨。しかし、その筆の先が毛ではなく同じように金属でできているのに気づいたのだろう。彼の顔が凍る。  筆の先は、鋭い光を放っていた。先の尖った針がまとまったようなその器具は、普通に生活していれば絶対に見る機会などなく、得体のしれないものに見えただろう。何をするものか分からなかったとしても、それは恐ろしいものだという予感があったのか、その顔は少し青い。 「何を……」 「刺青。知らないことはないだろう?」  小さく息を呑む音。冷や汗をかいているのがわかる顔に、大地はにっこりと笑った。 「ごめんな、プロじゃないから綺麗に入れられないだろうし痛むだろうけど、頑張れ」  手にしたそれを、容赦なく肌に突き立てた。テオドールの眉がきつく寄せられる。チャッチャッという小刻みな音と共に針が真っ白な肌を傷つけ、内側に入りきらなかった墨が肌に溜まる。それを拭いながら、先程描いた下描きを針でなぞっていく。相当な痛みがあるのか、テオドールの肌はじっとりと汗ばみ、きつく歯を食いしばっているのが見て取れた。  可哀想に、そう思いながらも大地は無情にその手を動かす。チャッチャッ。チャッチャ。音が響く。それと共に、消えない傷が彼の体に残されていく。妙な高揚感。流石に練習もなしにやるのはどうかと思い擬似ハンドで練習はしていたが、実際の肌に針がつき刺さり、その薄い膜を破り、抜けていく感触はなんとも言えなかった。
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