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森に棲む人
変貌した森の色を、僕は、血の色と呼んでみたくなるときがある。
ここの森は日本の紅葉とまたちがう、心臓がどきどきするようなあか色。
それでも、いつか“彼”の口元を染めた色には遠い。
朝霧が立ち込め、落葉のあかが敷き詰められても、その家への白い石畳に僕は導かれる。
鳩の羽ばたきが聞こえる。
彼は黒い、折りたたんだ翼のようなインバネス姿をして、玄関先で待っていた。
「アユム、おはよう」
また来たの? なんてもう言わなくなったね。
僕は友人の親しさで彼の家にあがる。出会ってひと月しか経っていないけど、向こうも僕を受け容れるようになっている。
十四歳の僕と、何歳なんて数字で属性付けするのはもはや無意味な彼。僕らのあいだには特殊な境界が交わっている。
リビングは寒いままだから、僕はコートを脱がない。一方コート掛けにインバネスを掛ける彼は、寒さは平気なので、お洒落でそんな格好をしたがるのだ。下も黒いシャツにベスト。僕と同類のセンスもとい志向。
窓からは庭の鳩舎が見える。紅葉してから、あの子たちの白は際立った。
暖炉を使っていない代わりに、彼は熱い紅茶を淹れてくれる。
僕は今朝の教会のことを話しながらソファーに座る。
「今朝、牧師さんが君のこと悪し様に言ってたよ。必死すぎてもう、後ろのほうで聞いてて笑っちゃったよ。前の牧師は分別あったっていうんだから、ピンからキリまでいるもんだね」
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