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「それでも帰らなきゃ」
「嫌だ、帰ったら死んじゃう」
彼の鋭い声が耳元に来た。
「だからってここで死んではいけない!」
僕は驚きで跳ね上がった。
そして彼を睨みつけ、睨み返された。
「そんなに、死にたいのか」
彼の表情が、怖い。
でもそれは、僕の望むところだった。疲れていてもそうでなくても、僕が夢見るところだった。月子が秘める攻撃的な願望とは真逆の。
「いいよ、死んでも。君なら、君になら」
青白い手が、伸びてくる。僕の首を掴み、抱き寄せた。
僕は考えることをやめた。そうであることが相応しいとでもいうように。
襲いくる眠り。暖かくも冷たくもない闇のなかに、身体が溶けて無辺に広がるようだ。
嫌悪すべき自意識にしばしの闇が差し込まれる。
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