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「もうそれしか私に対して出来ることがないからだよ。放っておいてあげなさい」
「でも煽られた奴が君に何かしたら嫌だな」
テーブルに、湯気のたつ紅茶が置かれた。ちゃんと蜂蜜が付いてる。
彼の碧い目が僕を見る。僕も見返す。
「アユム、私は大丈夫だって、この前の件でわかっただろ」
安心させる柔らかい声を掛けられてうっとりする。これは彼個人の魅力なのか、それとも種族特有の魔力なのか。後者であり前者でもあると信じたい。
勝手に魅入られそうなので僕はあわてて目をそらし、紅茶に蜂蜜を入れた。
「あの時はハラハラしたんだからね。十字架も陽光もその他諸々も効かないなんて、驚いちゃったよ。まあアイツらの驚いた顔も面白かったけどね」
でも、肩透かしも正直あったんだ。なんてことは不謹慎だから口にしないでおこう。
ティーカップに口を付ける。
「ヒトの決めた弱点に私が付き合う理由がないからなぁ……」
「弱点といえば……君的には“本の中の君たち”はどうなの?」
彼の時間の主な使い方は、近年は読書なのだという。彼でも生きない生を、生きる為の手段なのだ。
「あれはあれで有りだと思うよ。人がどう物語ろうが私は私で変わりない。私自身の問題と物語のものは別物だよ。ああいう弱点は、駆け引きや魅力になって物語を引き立てるんだろう?」
「まあそうなんだろうけどさ」
「みんな私を恐れているかもしれないが、私はもう人間に手を出さなくても生きていける術を得た。だから私に関わらないことがみんなのやるべきことでもいいのさ。それはまだ冷静なほうだよ」
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