森に棲む人

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 彼は窓際に立つ。せわしない羽ばたきがする。何羽か帰ってきたようだ。  蜂蜜入りの紅茶は美味しかった。白いカップの底をぼうっと見つめる。  人間に手を出さなくても生きていける。その言葉に先手を取られた気がした。物語の中では心を読む者もいるが、実在の彼はどうなんだろう。僕の気持ち、悟られているのだろうか。  あの子たちがくるくる鳴き交わしている。  僕は意を決して切り出した。 「あのさぁ……鳩ばっかり食べて飽きてこない?」 「飽き? そんなのないよ、どうしたの急に?」 「……僕は駄目?」 「アユム」  今朝祖母の家を出てから、森の道を歩いている間も、ずっと考えていた。どう切り出そう? 体裁はよくして、成功するために下手な誘い方はしないでおこうって決めてた。  でも結局凡庸な切り出し方をした。焦燥を抑えこめない。彼に迫って胸に手を当て己を強調する。 「僕がいいって言っても、駄目なの?」  彼を見上げる。彼は僕の肩に手を置く。 「アユム、私がこの術を得たのは、人間の社会に紛れていくうえで衝突を極力避けようとした結果なんだ」 「そんなのわかっているよ。だから、僕がいいって言っても駄目なのかってこと」 「君は鳩とは同じになれない」 「一度ぐらいなってみたい」 「何故」
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