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はやすぎた前夜
帰宅して祖母に報告する。歳を取るにつれ寡黙になっていったという彼女は、頷くだけだった。僕が日本からのお土産にあげた湯呑で白湯を飲んでる。孫のやることにも彼にも口出しはしない人だ。何を考えているのかもわからないが。
当日までの準備の日々は楽しく速やかに進んだ。彼と電車で街へ出て、必要な物を買って、飾りつけて。
ケーキの注文も街に行った時に済ませたので大丈夫。
少量の薪割り作業で僕は騒いだ。
ふと、始まるまでが一番楽しいという言葉が頭を過ぎってしまった。
村の人たちは荷物を抱える僕たちを、何かおかしなことをしていると遠巻きに見ていた。
クリスマスパーティー当日の昼、僕と彼は街へケーキを受け取りに行く為、駅へ向かった。
その道中あの牧師さんが、すれ違い様に会釈してきた。僕たちも返す。牧師さんや村の人たちを、とりあえず恨まないことにする。彼がそれを願ったから。でも僕はその難しさもよく知っているつもりだった。
電車に乗った僕はその揺れに合わせるように、身体を上機嫌に揺らした。
「このまま君とさ、距離的にも時間的にも、どこまでも行けたらな」
「アユム、ほんと君は私達に憧れているんだね」
彼は苦笑して、窓の外を見る。
「確かに、私はずいぶん遠くへ行ったものだ」
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