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町に着き、ケーキ屋へ向かう。すれ違う人たちは皆ちらりと彼を見てしまう。彼は人を惹きつけるものをいやでも発してしまうのだ。それは艶やかだが単純な魅力ではなく、闇の恐れを伴っている。臆さずに、踏み込めた者だけが彼に近づける。
ケーキ屋に入って彼がレジに伝えている時、僕は今さっき買い物をして店を出ていった男が気になっていた。
僕の目は一目で彼を見抜いたように、どんなに明るい時間だろうと正体を隠していようと、闇を見ることができる。察することができてしまう。祖母はそれを呪いと呼んだ。
今の男も、そうだ。
僕はふらふらと店を出ていった。
あの男に追いつく。
「あの」声を掛ける。男が振り向く。
やや青ざめた顔をした中年の男だ。頬骨が少し浮いているが、体格は彼よりすぐれている。目の周りが塗られているのか黒い。
「なんだ」低い声だ。
「えーっと、その」
男の目が光り、手が僕の肩に置かれる。手指が、じりじりと首へ近付いてくる。僕は怖くはなかったが、肌がひりひりと何かを感じとっていた。
雑踏が耳から遠のいていく。僕は動けず、言いたいことも出てこなかった。
「アユム!」
呼び声で我に返る。ケーキの箱が入った袋を提げた彼が追いかけてきた。
男は無言で去っていく。
「何をしているんだ君は」
途端に恥ずかしくなって、僕は俯く。
「いや、だって、あの人……」
「同族、だな。だからって誰彼構わず話しかけるものじゃないよ」
「うん……」
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